研究内容

当研究室では主にイオン-電子混合伝導性セラミックスに着目し、「良質な試料作製」、「構造・物性の精密評価」、「大型共用先端実験装置の活用」を基軸とした研究を展開しています。以下に具体的な研究内容をご紹介します。

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1. 酸化物イオン-電子混合伝導性セラミックスの酸素透過性

イオン-電子混合伝導性セラミックスとはイオンと電子が両方伝導するセラミックスのことです。ここで特に伝導するイオンが酸化物イオンである酸化物イオン-電子混合伝導性セラミックスは、ある興味深い現象として、「酸素透過性」を示すことが知られています。下図は、酸化物イオン-電子混合伝導性セラミックスに生じる酸素透過のしくみを示したものです。高温下で、混合伝導性セラミックスを酸素量の多い(酸素分圧の高い)ガス雰囲気と酸素量の少ない(酸素分圧の低い)ガス雰囲気間に隔てて設置し600℃以上に温度を上げると、高酸素分圧側から低酸素分圧側に酸素ガスのみが透過します。この酸素透過のしくみは以下のとおりです。

1)      酸素分子が高酸素分圧側の混合伝導性セラミックス表面に吸着し,この表面でO2が解離しセラミックス内の電子が結合することで酸化物イオ    ン(O2-)となる。

2)      このO2-がセラミックバルク内の酸素欠陥を介して,高酸素分圧側から低酸素分圧側に伝導するとともに,電子がそれと逆方向に伝導する。

3)      低酸素分圧側に到達したO2-は、混合伝導性セラミックス表面で電子を放出し、2つの酸素原子が結合し酸素分子となり、セラミックス表面か          ら脱離する。

以上より、酸素が高酸素分圧側から低酸素分圧側に透過することとなります。本研究では、以下のような応用を見据え、酸素透過性の高いセラミックスを開発しています。

酸化物イオン-電子混合伝導性セラミックスのSOFC空気極への応用

この混合伝導性セラミックスの酸素透過のしくみは、固体酸化物形燃料電池 (Solid State Fuel Cells; SOFC)空気極のしくみとほぼ同様であるため、酸素透過性が空気極性能の指標となります。当研究室では、高い酸素透過性をもつ混合伝導性セラミックスを構造物性に基づき学術的に調査することで、高性能なSOFC空気極材料を開発しています。具体的な研究開発内容の一例については以下のリンク先を参照下さい。

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混合伝導性セラミックスのその他エネルギー関連材料等への応用

 酸化物イオン-電子混合伝導性セラミックスの酸素透過性を応用すれば、従来の産業的な方法よりも省エネで純酸素を取り出すことができるようになります。このことから、以下リンク先で紹介したように、メタンと純酸素を反応させ水素を製造する改質器等への応用が期待できます。また、医療分野において在宅酸素療法(High Oxygen Therapy)で処方される純酸素供給器への応用も期待されています。

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2. プロトン-電子混合伝導性セラミックスの開発とそのプロトン伝導性セラミック燃料電池への応用

SOFCでは酸化物イオンが固体電解質内を伝導するのに対し、プロトン伝導性セラミック燃料電池(Proton Conducting Fuel Cells; PCFC)では、固体電解質にプロトンが伝導することで発電に寄与する燃料電池です。比較的低い温度(500-600℃)で、固体電解質が高いプロトン伝導性を有することから、中低温域で作動可能な燃料電池と期待されています。このPCFCを実用化する上で僅僅の課題の一つが、500-600℃で高い性能を有する空気極が見出されていないことにあります。PCFC空気極にとって、プロトン-電子混合伝導性セラミックスが有効であることが知られていますが、プロトン-電子混合伝導体であるかどうか評価すること自体困難であり、どのような物質がプロトン-電子混合伝導体となるかよく分かっていないのが現状です。本研究ではその評価技術の確立から行い、その評価に基づき、プロトン-電子混合伝導体を学術的に探索することで、PCFCに適した空気極材料の開発に取り組んでいます。本研究は、NEDOプロジェクトの一環として、複数の研究機関と共同で取り組んでいる研究テーマです。プロジェクトの詳しい研究内容は以下のリンク先をご覧ください。

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